症例

2022.08.03

膵臓がん

すい臓がん遺伝子治療併用 ケースレポート

【すい臓がん】

全国がん(成人病)センター協議会
2017年2月16日発表2000年から2003年、20病院 4万5359人のデータより算出 がんの統計より

主な膵臓がん治療法

フォルフィリノックス(FOLFIRINOX)療法:5-FU・イリノテカン・オキサリプラチンの3種類の抗がん剤に、5-FUの増強剤であるレボホリナートを加えた多剤併用の治療法です。2週間ごとに繰り返す治療ですが、1回あたり2日間かかるため、外来・在宅で治療を行うために、皮下に埋め込み型のポートを造設する小手術を行う必要があります。最も推奨度の高い治療のひとつですが、副作用(感染症・下痢・しびれ、など)の頻度も高く、十分な体力があり、全身状態が良好な方が対象になります。当院では、副作用を低減するために、当院主導で行った多施設共同試験の結果を踏まえ、予め修正を加えた投与法(modified FOLFIRINOX)で治療を行っています。
・有明癌研一次治療成績*:80例(2014-2017年): 生存期間:17.1ヶ月 

ゲムシタビン・ナブパクリタキセル療法(Gem/nab-PTX療法, GnP療法) 1回60-90分の点滴を、週1回で3週連続行い4週目を休む、4週間1コースのスケジュールで繰り返す治療法です。FOLFIRINOX療法と並んで、最も推奨度の高い治療法のひとつですが、副作用(感染症・しびれ、脱毛など)の頻度も高く、やはり、ある程度の体力があり、全身状態が良好な方が対象になります。
・有明癌研の一次治療成績*(2015-2017年): 生存期間中央値:14.1ヶ月

すい臓がん二次治療について

リポソーマルイリノテカン・5FU/LV療法(Nal-IRI/FL療法):2020年6月に保険承認された治療法で、先述のFFX療法からオキサリプラチンを外し、イリノテカンをリポソーム型イリノテカンに組み替えた、二次治療用*の併用療法です。FFXと同様に2週間ごとに繰り返す治療で、1回あたり2日間かかるため、皮下に埋め込み型のポートを造設する小手術を行う必要があります。イリノテカンをリポソームのナノ粒子に封入したのがリポソーム型イリノテカンで、抗がん剤をナノ粒子に封入することにより、抗がん剤をがん細胞が存在する組織により選択的に届けられるようにすることで、イリノテカンの副作用を軽減すると考えられています。

二次治療について
FFX療法とGnP療法は一次治療として確立した治療法ですが、二次治療に関しては、安全性と有効性が科学的に証明されないまま、十分な体力がありそうな患者さんに対して、みなし標準的に使われてきました。Nal-IRI/FL療法はゲムシタビンベースの一次治療後の二次治療として、FL療法と比して有効性が証明された治療法ですが、FFX療法と比較しているわけではないため、FFX療法との優劣はまだよく分かっていません。FFX療法と比べ、体力的な面で対象患者さんのすそ野が広がるものと期待されますが、FFX療法が十分できそうな患者さんに対してどちらを用いるかに関しては、今後の臨床データの蓄積が必要です。

切除不能膵癌に対する FOLFIRINOX 治療の実際

  • 我が国における膵癌による死亡者数は平成 25 年に 30672 人と,ついに 3 万人を突破し肝臓癌を抜いて癌死亡の第 4 位の順位となり、なお増加中である。膵癌は診断時に進行しており非切除例の割合が多いため治療には化学療法が重要であると考えられています。
  • 切除不能膵癌に対する化学療法は長らくゲムシタビン(GEM)が標準治療であった。これに続いて GEM+Erlotinib 併用療法,S―1 が用いられるようになったが、3 つのレ ジメンには治療成績において大きな差はなかった。FOLFIRINOX 治療はフランスで行われたGEMとの比較試験で生存期間に大きな差を持って優越性を示し、欧米では迅速に標準治療の一つに加えられた。本でもほぼ同様のレジメンで治験が行われ、良好な成績を 得たため2013年12月承認。

2011 年に Conroy4)らが報告した遠隔転移を有する膵癌に対する FOLFIRINOX 療法はGEMとの比較試験として行われ、明らかな優越性を示した。FOLFIRINOX 試験(ACCORD 11)試験デザイン遠隔転移のある膵癌を対象とし、PS、膵癌の原発部位で層別化したのち、GEM群とFOLFIRINOX群に無作為に割り付けた。

遠隔転移を有する膵癌で、適格条件は18 歳以上、ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group)の Performance Status (PS)5)が0または1黄疸がない。骨髄機能が保たれている(好中球数が1500mm3以上、血小板数が 100000mm3以上)、肝臓や腎臓などの重要臓器機能が保たれていることなどであった、除外項目としては76才以上、内分泌腫瘍や腺房細胞癌、膵癌に対する放射線治療歴のあるもの。

ASCOエキスパートのAndrew Epstein医師発表
の第3相ランダム化比較試験 (米国臨床腫瘍学会(ASCO) ASCO2018年

  • 第3相ランダム化比較試験において、手術で膵臓がんを切除した患者が4種類の薬剤を含むレジメンであるmFOLFIRINOX(オキサリプラチン、ロイコボリン、イリノテカン、5-フルオロウラシル)による化学療法を受けたところ、現在の標準治療であるゲムシタビン(商品名:ジェムザール)を受けた患者と比較して、中央値で生存期間が20カ月延長し、がんが再発しない期間は9カ月延長した。
  • (研究内容)PRODIGE24/CCTG PA.6臨床試験は、転移がなく、腫瘍をすべて、または、ほぼすべて切除した(手術後に外科医がみてもがん細胞は視認できないが、微小な腫瘍細胞が残っているかもしれない状態)膵臓腺がん(PDAC)患者を対象とした。膵臓腺がんは膵臓がんの中で最も多い種類で、全症例の90%を占める。手術が可能なのは膵臓がん患者全体のわずか10~20%である。米国では、2018年に55,400人が膵臓がんと診断されると推定されている。
  • (主な知見)中間値で33.6カ月の追跡時点で、膵臓がんが再発していない期間の中間値(無病生存期間)はゲムシタビン群(12.8カ月)よりもmFOLFIRINOX群(21.6カ月)の方が断然長く、全生存期間の中央値もmFOLFIRINOX群の方が断然長かった(mFOLFIRINOX群で54.4カ月に対し、ゲムシタビン群では35.0カ月)。mFOLFIRINOXの利益は患者集団の全てにおいて確認された。また、mFOLFIRINOXは、転移が出現するまでの期間も著しく延長した(中央値で30.4カ月。ゲムシタビンの場合は17.0カ月)。


今後検討される治療

マイクロサテライト不安定性検査(MSI検査)によるペムブロリズマブ(キイトルーダ)の適応について

がん遺伝子検査の1つである「マイクロサテライト不安定性」検査について、保険診療の中で「すべての固形がん」を対象に実施することを認める。(2500点)R3年8月25日
ヒトの細胞は常に分裂を繰り返しています。分裂は、▼細胞内のDNAの2本鎖がほどける→ ▼1本になった鎖の「対」となる形で新しい鎖がつくられる → ▼元の1本鎖と新しい1本鎖とが結びつき、2つの2本鎖となる―という工程で進みます。この新しい鎖を作る際にエラー(ミス)が生じることがあります。多くの場合、エラー(ミス)は修復されますが、修復機能が衰えていることがあり、その場合「がんになりやすい」状態と言えます。このエラー修復機能が衰えている状態を「マイクロサテライト不安定性」と呼びます。

マイクロサテライト不安定性=がんになりやすい状態、抗がん剤選択で重要ポイント
⇒保険収載されました

局所進行、もしくは転移が認められた標準的な治療が困難な固形がんの抗がん剤治療法選択を目的とする場合→2500点(イ「処理が容易なもの」のうち(1)「医薬品の適応判定の補助等に用いるもの」として)
(ⅰ)肺がんにおけるEGFR遺伝子検査、ROS1融合遺伝子検査、ALK融合遺伝子検査
(ⅱ)大腸がんにおけるRAS遺伝子検査、BRAF遺伝子検査
(ⅲ)乳がんにおけるHER2遺伝子検査
(ⅳ)固形がんにおけるマイクロサテライト不安定性検査

(i)から(iii)は従前どおりで、また使用目的・効果に関して「医薬品の適応を判定するための補助等に用いるもの」と薬事承認・認証を得ている体外診断用医薬品・医療機器を用いて、これらの検査を▼リアルタイムPCR法▼PCR-rSSO法▼マルチプレックスPCRフラグメント解析法▼次世代シーケンシング―によって行った場合に、本検査点数(2500点)の算定が可能である点、これら以外の方法で、▼肺がんにおけるEGFR遺伝子検査▼大腸がんにおけるRAS遺伝子検査―を行った場合には、2022年3月31日までは、D004-2【悪性腫瘍組織検査】の「1 悪性腫瘍遺伝子検査」の「イ 処理が容易なもの」のうち「(2)その他のもの」(2100点)が算定可能である点にも変更はありません。
「●●遺伝子に変異がある場合、●●抗がん剤が奏功する」という知見が明らかになってきており(がんゲノム医療)、保険診療の中でも「悪性腫瘍遺伝子検査」として実施が認められてきています(徐々に拡大されてきている)。例えば画期的な抗がん剤(免疫チェックポイント阻害剤)のオプジーボ(ニボルマブ(遺伝子組み換え))は高頻度のマイクロサテライト不安定性をもつ結腸がん・直腸がんに、キイトルーダ(ペムブロリズマブ(遺伝子組換え))は高頻度のマイクロサテライト不安定性を持つ固形がんなどへの効能効果が認められており、抗がん剤選択においてマイクロサテライト不安定性などの遺伝子検査が極めて大きな意味を持つ。

ケースレポート①

ケースレポート②

ケースレポート③
  • 2019年1月17日T大学病院にてすい臓がんステージⅡ外科手術
  • 2019年3月腹膜に転移が見つかる
  • 2019年7月肝臓3センチほどの転移発見
GENE:遺伝子治療/表参道ヨーイークリニック:Chemo:大学病院で化学療法

2020年12月28日 CT画像検査

肝S8/7転移:増大しているが、造影される領域辺縁に限局している。

2020年12月28日→2021年11月10日

2022年7月現在治療継続中:PR(部分奏功であるが、生活の質(QOL)の良い状態である。

治療の評価について

膵癌はK-ras遺伝子の変異にp16 やp53 などの癌抑制遺伝子の欠失や変異が加わり,前癌病変のPanINを経て多段階的に発生する.膵癌の浸潤・転移機構には癌と間質の相互作用や上皮―間葉形質転換(EMT)といっ た現象が重要な役割を演じている.また,他の癌で示されているように,膵癌においてもEMTが誘導され ている細胞が癌幹細胞の性質を獲得し,悪性形質をさらに増している可能性がある

図1PanIN分類と膵臓癌のドライバー遺伝子BIG4【KRAS、CDKN2A(p16)、TP53,SMAD4】の変化

膵癌化の最も早期にそして最も高率に異常が 認められる癌遺伝子はK-ras遺伝子である3(図1 ) ) 。 その変異はPanIN-1A病変の 30% 以上に認められ、異型度が増すに従って頻度が高くなり、膵癌病変では 90%以上に検出される。ほとんどがexon1のcodon12の変異であり、glycineをコードするGGTからaspartic acidをコードするGATやvalineをコードするGTTに変化することが多い。この変異によってK-ras遺伝子は活性型となり、細胞増殖に関与する代表的なシグナル伝達経路のひとつRas-Raf-MEK-ERKシグナル経路を活性化し、細胞増殖を促進するK-rasの変異に続いてp16,p53,Smad4などの癌抑制遺伝子の異常が生ずる1(図 1) ) 。
p16の異常はcyclin依存性キナーゼ(CDKs)に属しCDK4とCDK6によるretinoblastoma(Rb)タンパクのリン酸化を抑制している。p16 の機能が失われるとRbタンパクのリン酸化が起こり、細胞周期がG1 からdeoxyribonucleic acid(DNA)が合成されるS期に移行する。その結果、細胞分裂が誘導されると考えられている。細胞老化(senescence)とともに顕著な発現上昇が認められることから、細胞老化のマーカーとしても用いられている2
この遺伝子異常は様々な形で生じ、膵癌においては相同染色体の片方の変異や欠失 (loss of heterozygosity:LOH)あるいは双方の欠失(homozygous deletion)がそれぞれ 40%、またp16プロモーターのメチル化による機能消失 が 15% に認められ、総じて 95% とK-rasと並び 最も異常が認められる遺伝子である。

p53の異常も50~70%に認められ、相同染色体の片方の変異や欠失によるものが多い1)。p53はDNAに損傷が生ずるとG1、G2 期で細胞周期を停止させる。また、修復不能な遺伝子の損傷を検出し、細胞死やアポトーシスへと誘導する1)。p53 の異常はPanIN-3 病変からみられるようになり、K-rasやp16 の異常に比べ癌化の後期に起こっていると考えられる。

Smad4はDPC4(deleted in pancreatic cancer locus 4)として膵癌において高率に欠失が認められる 18 番染色体長腕の領域から単離、同定された癌抑制遺伝子である3)。TGFβ(tumor growth factor β)シグナルは発癌過程に対しては抑制的に働き、後述するように癌の浸潤には促進的に作用するといった 2 面性を持つことが知られているが、Smad4はそのシグナル伝達経路の調節 因子である。

Smad4 に異常が生ずるとTGFβの細 胞増殖抑制作用が消失し、細胞増殖が促進されると考えられている3)Smad4 の異常は膵癌において約 55%に認められ、LOHが25%、homozygous deletionが約30%である。また、Smad4の不活化はPanIN-1、-2では観察されずPanIN3病変から観察され、膵癌化過程の後期に起こるものと考えられる。上記の4つが膵癌化に関与するものとして多くの研究者によって確証が得られている重要な遺伝子群である。その他にも、胎生期の膵形成に重要な役割を果たしているNotchやHedgehogをはじめとした様々な遺伝子の過剰発現や変異、欠失も膵癌の発生過程で生じていることが示さ れており1)。上記遺伝子に協調して膵癌の癌化に促進的に働いているものと考えられる。膵癌化のinitiationとしてK-ras遺伝子の変異が必要であり、それに、p16 あるいはp53 の変異が加わることによって癌化が促進することがわかっている1)
1)膵癌の浸潤・転移機構膵癌は進行例で発見される例が多く、stageIVで発見される例が全体の70%を超え、stageIで発見される例は2%に満たない3)。これは膵癌の非常に高い浸潤・転移能によるものと考え られる。膵癌の転移は、図 3 に示すように、基底膜の破壊を最初のステップとして始まる4)。基底膜は間質と比較して強固な構造物であり、上皮細胞や内皮細胞の裏打ち構造として生体の至る所に存在し、癌細胞もそれによって囲まれている。基底膜を壊した膵癌細胞は膵実質に移動 (浸潤)し、血管やリンパ管に侵入し血流やリンパ流にのり、他の臓器に着床しそこで生育することで転移巣が形成される。

(1)癌―間質相互作用(cancer-stromal interaction) 膵癌は、豊富で密な線維性間質(desmoplasia) を特徴としている(図 4A,B)。最近の研究から、慢性膵炎の線維化に中心的な役割を演じている膵星細胞(pancreatic stellate cell:PSC)が、癌においてもその間質形成に寄与していることが明らかとなっている。癌細胞より分泌されるTGFβやPDGF(platelet-derived growth factor)、fibroblast growth factorなどのサイトカインや増殖因子のparacrine的な刺激によって活性化されたPSCが、コラーゲンを活発に産生しdesmoplasiaを形成する5)。そして、PSCはperiostin6)やマ トリックスメタロプロティナーゼ(MMP)16)などの産生も亢進させ、癌細胞の浸潤を促進する
(2)上皮―間葉形質転換(epithelial to mesenchymal transition:EMT) EMTとは、胎生期の原腸陥入や体節形成の発生過程で上皮細胞が間葉系細胞に形態変換し、細胞移動能を獲得する現象である。上皮細胞に EMTが誘導されると,その細胞間接着が弱まり, 上皮系マーカーであるE-cadherinの発現低下と, 間葉系マーカーであるvimentinやfibronectinの発現上昇、β-cateninの局在変化などが認められ、細胞の移動能が亢進する8)。膵癌では、TGFβシグナルがEMTを誘導することが明らかにされ、続いてTGFスーパーファミリーに属するbone morphogenetic protein(BMP)シグナル、さらに、様々なサイトカインや分子がEMTを誘導することが示され、膵癌細胞の浸潤や転移にEMTが重要な役割を演じていることが示唆されるよ うになった(図 5)9)

これらのEMTを誘導する物質は間質細胞でも産生されるものが多く、上述した間質との相互作用が膵癌のEMTを促進していることも想定されている。また、EMTは癌の浸潤・転移だけではなく、化学療法耐性能の 獲得にも関与していることが明らかとなってきた。

例えば、化学療法で使用されるジェムシタビンに対して薬剤耐性株は間葉系の形態に変化し、E-cadherin発現の低下とvimentinの発現増加を示す10)。MSX2という膵癌細胞のEMT誘導分子を膵癌細胞に過剰発 現させると、膵癌細胞はジェムシタビンと5-FUに対して耐性を示すようになった11,12)。これらのことは、その誘導因子が何であるかに関わらず、膵癌細胞にEMTが惹起されると化学療法耐性となる可能性を示唆するものである。
(3)膵癌幹細胞と悪性化
抗癌薬耐性や癌再発さらに癌の転移などの癌悪性化に関与する現象は、癌幹細胞(cancer stem cell)といわれる癌細胞の中でもごくわずかに存在する細胞群がもたらしていることが示唆されている。癌幹細胞の特徴として 13)自己複製能と多分化能を持つ。14)細胞周期進行(細胞分裂速度)が遅く、通常、細胞周期の静止期にいる。1)腫瘍形成能が高い。などが挙げられている。図5Aに示すように、癌幹細胞が分裂する際には自己と同じ性質を持つ細胞と多様な癌細胞に分化する前駆細胞とに不均等に分裂する。前駆細胞は様々な性質の癌細 胞に分化し、癌組織は癌幹細胞を中心としたヒエラルキーを形成していると想定されている従来使用されている多くの抗癌薬や放射線が細胞分裂期やDNA(deoxyribonucleic acid)合成期に作用することから、細胞周期静止期にいる癌幹細胞には効果がないことが示唆されている。従って、腫瘍組織が抗癌薬投与や放 射線治療を受けると、その大部分を構成する(癌幹細胞以外の)癌細胞が減少し腫瘍組織は消滅したかにみえる。しかし、わずかに生き残った癌幹細胞が不均等分裂を進めることによって治療前と同様のヒエラルキーを維持した腫瘍が形成される。癌幹細胞を中心とした癌再発はこのようにして起こると考えられている(図 5B).

図5. 膵癌悪性化と癌幹細胞A、癌幹細胞は不均等分裂によって自分自身と同じ細胞と前駆細胞に分裂する。前駆細胞はさらに分化し多くの分化した癌細胞となる。B,前駆細胞や分化した癌細胞は抗癌薬や放射線などの治療によって細胞死が誘導されるが、癌幹細胞だけは生き残る。生き残った癌幹細胞が不均等分裂によって多くの癌細胞を産生することで治療前と同様の状態に復する。C,膵癌にEMTが誘導されると、癌幹細胞の性質を持つ癌細胞の数が増加する。この細胞はEMTによる浸潤・転移能に加え、癌幹細胞の性質である治療抵抗性を併せ持つ。
膵癌は、 K-ras遺伝子の変異が引き金となり、それにp16やp53などの癌抑制遺伝子の変異、あるいは炎症による刺激などが加わって発生する。その後、癌細胞と間質細胞の相互作用やEMTの誘導によって癌細胞は基底膜を破壊する能力を獲得し浸潤癌(いわゆる膵癌)となる。膵癌細胞はEMTが誘導されている間、つまりEMT誘導シグナル が存在する間、浸潤・転移傾向を示すとともに、癌幹細胞の性質を加えることによって様々な治療や生体の持つ防御機構から逃れ、さらに転移巣を増やしていく。膵癌はこのような機序によって非常に高い悪性度を示すのではないかと思われる。

あきらめない膵臓がん治療がここにある!

文献

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